緋箱双紙 弐拾肆『旅』紗由

子供のころ、初めて行った海外旅行が
エジプトとギリシャだった。
父の趣味だった。

5歳の頃だったのでほとんど何も覚えていないのだけれど、
いくつか鮮明な記憶がある。

ひとつはピラミッドの中。
とは言っても、詳細を覚えているのではなくて、
しっとりとした暗闇の色と
空気の味わいを覚えているという感じ。
異界に通じるような、不思議な空気だった。

ふたつめはピラミッドの暗闇から外に出た時、
そこがあまりにも眩しくて、高い場所で驚いて大泣きしたことだ。
多分、ツアーで行ったのだと思うのだけれど、
一緒に行った見ず知らずのお兄さんが
泣いている私をおんぶして降りてくれた。

みっつめはラクダに乗った時のこと。
現地の人が私をひょいと乗せて走ってしまったので、
攫われたのかと思ったのか大人が騒いでいた。
しらない現地の人とふたりっきりで
ラクダの上から砂の地面がビュンビュン通り過ぎるのを見ていた。
あと、ラクダ、乗り降りの時、
めちゃくちゃがっくんがっくんした。

ギリシャはエジプトと比べて全然記憶がない。
パルテノン神殿の前に立っている写真があるので、
多分、パルテノン神殿に行ったのだと思うのだけれど。
父が街中で英語を喋っていたことしか覚えていない。

本当に、驚いてしまうくらい、
ギリシャの記憶はエジプトの記憶と比べて薄い。

同じ時期に行ったのに、
これほど記憶に差が出るのは不思議。

太陽と、砂と、ピラミッドとラクダ。
これがわたしの、最初の旅の記憶です。