緋色の箱 / 多間 環

昔々、あるところに小さい姫がおりました。
 
ある日、小さい姫がお父様から緋色の箱をいただきました。

「姫と同じ緋色の箱だよ。姫が一番欲しいものが入っているよ。」

お父様はそう言って、姫に箱を渡しました。
姫はとても喜んで、鈴のように笑いました。
白磁に桜貝をあしらえた小さな手をふたつ添え、姫は緋色の箱を開けました。

箱の中には、一回り小さい箱が入っておりました。
一回り小さい箱の上には、黒い髪がひとふさ置かれておりました。

「これはきっとお母様の髪だわ。
 筆を作りましょう。漆黒の瞳が描ける筆を。」

姫はまた鈴のように笑いました。

それから、ほぅと馨しい溜息をつきながら、もう一つの箱を開けました。
中には、また、一回り小さな箱が入っておりました。
その箱の上には、真っ赤な紅が置かれておりました。

「これはきっとお母様の紅だわ。
 私の小さな薬指でもお母様のように美しく紅をひけるかしら。」

姫はまた鈴のように笑いました。
あまりに沢山笑ったので、姫の頬は色づき始めた林檎のように赤くなりました。

高鳴る胸を抑え、箱をほんの少し開けてそっと覗いた姫は、お父様を見上げました。
そして、泣き笑いながらクルクルと箱を抱えて踊りました。

「お母様。逢いたかったわ…。」

うっとりと姫は箱の中から白いものを取り出しました。
それは、女の首でした。
白磁の肌に漆黒の長い髪。姫に瓜二つの美しく可憐な首でした。
ただ、唇は血の気無く瞳も固く閉じられておりました。

「漆黒の瞳と真っ赤な紅は私が描きましょう。
 きっとお母様も私を見つめて笑ってくださるわ。
 あぁ、私と共にずっと一緒にいてくださいませね。」

姫はそう言って、首に頬を寄せ、潤んだ瞳でお父様を見上げました。
お父様は「そうだね」と頷き、微笑みました。

そして、姫の箱の蓋を閉じました。
緋色の箱からは、いつまでも泣き笑う鈴の音が高く高く漏れ聞こえておりました。

 
ほどなくして、お父様は緋色の箱を異国に売り払いました。

何千里、何千年、過ぎたでしょうか。

ある日、小さな姫がお父様から緋色の箱をいただきました。